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TANKPACTM試験技術パッケージ: 地上置タンク底板のAE法による腐食損傷診断

  
タンクの安全性と経済性を両立させるTANKPACTM 試験技術
設計内容及び使用環境の異なる個々の地上置タンクに対して、一律に開放周期を定めるのではなく、タンクの健全性の度合いに応じた開放周期を定める「性能規定によるメンテナンス」が合理的であると考えられています。これに応じて、個々のタンク底部の腐食損傷に対する健全性を、開放することなく評価できる可能性のある具体的な手法の一つとして、AE法が近年注目を浴びています。

TANKPAC
TM
は、欧州で実施された3000例以上の試験で構築された膨大なデータベースを参照し、活性な腐食の進行で生ずるアコースティックエミッション(AE)を感度の高いアコースティックエミッション(AE)センサーを用いて検出することにより、タンク底部のグローバルな損傷診断を行う試験法です。この試験法は、イギリスのPhysical Acoustics Ltd. (PAL)と石油メジャー各社及び大手化学会社の数十社からなるAEユーザーグループにより、1989年からおよそ10年間に渡って開発され、タンクAE試験の実施、及びデータ評価・判定手順が定められています。

 TANKPACTM試験の特徴:
  • 経費削減 、工期短縮、環境問題の軽減
  • タンクを開放することなく、供用中に腐食損傷状態の診断・評価ができます。
  • 迅速な検査が可能です。例えば、直径50mのタンクの検査が1日で行えます。
 TANKPACTM試験の利用法と価値:
  • メンテナンス実施計画の一環として位置付けられます。
  • 開放検査を行わなくてもよいタンクのスクリーニング検査手段として適用されます。
  • 開放検査を行うタンクの優先順位を決め、最も経済的且つ効果的に業務を行うのに用いられます。
  • RBI(risk based inspection)プログラムを実施するための一手法としてよく適用され、経費の削減に極めて有効です。
 TANKPACTM試験概略:
  • TANKPACTM試験では、30kHz共振型プリアンプ内蔵型AEセンサーを、底板から0.8~1.5m の高さの側板上に3 の倍数となる数だけ、円周方向に対して等間隔に配置し、液中を伝播してくるAE 信号を検出します。使用するAE センサーの個数は、直径12.5m までのタンクで3 個、50m で12 個、また80m 程度のタンクで21 個を取り付けます。また、固定屋根式タンクで液滴の落下によるノイズが生じる場合には、2段配列となるため、必要なセンサー数は基本的に2倍となります。

    AE計測を行うための液面高さは、50%(固定屋根式タンクの場合85%)以上の液面レベルを推奨します。

    計測前には、外部雑音が入らないように、対象となるタンクに接続するパイプのバルブを閉じて外部から完全に遮断し、内部雑音(内容物の移動等)がなくなるまで十分に静置します。
    • 良好なAE計測を行うのに必要な受け払い終了後の静置時間は、直径15m以下の製品タンクで6 時間、直径30m を越える原油タンクで24 時間以上としています。


AEセンサーとマグネットホルダー
 AE試験準備:

AEセンサーを取り付ける前に、取付面(直径5cm程度)は、センサー感度面と十分密着するようにスクレーパーなどを用いて十分平滑化します。AEセンサーの取り付けは、マグネットホルダを用い、カプラントを介して行います。AEセンサー設置後は、シャープペンシル法等によって、取付感度に差がないことを確認します。
試験実施に際しては、あらかじめ用意したリークモニターを用い、タンクに連結されたパイプ、あるいはバルブ等で、リークがないことを確認します。

 AE試験計測:

計測は、1時間を目安に実施しますが、特に雨、風などの環境雑音が大きい場合には、計測を停止し、総合時間として1 時間を計測するものとします。雨については基本的には少量でも計測は不可能であり、風については現場の状況によって風速が3m/秒を越えると、タンクで発生する機械的雑音により通常のAE 計測が困難になることが報告されています。

計測されたAE信号処理パラメーターは、ヒット数(信号検出数)、振幅値、相対エネルギーなどであり、AE発生源の大まかな位置を知るために位置標定機能を用います。
AEセンサー取付状況 センサー感度の確認試験 リーク有無の確認状況
 AE試験結果評価:

検出されたAEデータは、欧州で実施された3000 件以上のAE試験例で構築されたデータベースに基づいたデータの評価・判定手順に従い解析します。この評価・判定手順では、以下に示される5段階のグレード分けが行われ、それぞれの損傷度を有していると判定されます。
A グレード:
B グレード:
C グレード:
D グレード:
E グレード:

腐食損傷は存在しないと考えられます。
80%程度の確率で腐食損傷は存在しません。
60%以上の確率で腐食損傷が存在します。
85%程度の確率で軽微なものを含め腐食損傷が存在します。
90%程度の確率で腐食損傷が存在しす。またこの時、60%以上の確率で大規模な補修あるいは底板の一部交換などを必要とする重大な損傷が存在します。
大型タンクのAE試験
実際の判定には、上記に示した通常のAE 解析データ(Overall) によるグレードと、信号継続時間が長く大きなエネルギーを持つAE 信号(Potential Leak Data (PLD) と定義)の評価で得たグレードが、組み合わせて用いられます。下表に、その判定基準を示します。ここでⅠと判定された場合、タンクは開放することなくそのまま操業を継続し、4 年後に再度AE 試験の実施を推奨しています。またⅡと判定された場合、操業を継続し、2 年後に再度AE 試験の実施を推奨しています。一方、ⅢあるいはⅣと判定された場合、開放検査を遅くとも半年あるいは1 年以内に行うべき事を推奨しています。
この判定基準に従ってメンテナンスを実施することが一般化され、開放検査期間を大幅に延長することが可能となりました。これにより、維持・管理費を従来に比べ90%程度節約できるようになったと言われています。
 AE試験結果のグレード分けとタンク開放後に検証された損傷度との対応:
左図にヨーロッパで実施された157 基のタンクAE 試験で得たグレード分けの結果と、タンク開放後に検証された損傷度との対応を示します。図中、灰色で示される棒グラフ(FU1/2)は、開放時に全く補修を必要としなかった事例を、黒塗りのグラフ(FU3)は軽微な補修を必要とした事例を、また白抜きのグラフ(FU4)は、大規模な補修、あるいは底板の一部交換など重大な損傷の存在した事例を示します。ここで、グレードA と判定された場合には補修の必要な事例は全く認められず、またグレードB においても、その80%程度は補修を必要としませんでした。一方、グレードがC, D, E と変化するにつれ、補修の必要比率は高まり、グレードE においては、90%程度が補修を必要としていました。したがって、AE 試験によるグレード分けは、底板の損傷状態とよく相関し、実用的評価を実施する際に有効な情報を与えることが理解されます。
AE 試験結果のグレード分けとタンク開放後に検証された損傷度との対応
 TANKPACTM試験の適用事例
ナフサ タンクへの適用例(以前は “E” グレード、
そして補修後は “A” グレード)
“E” グレードと判断された原油タンクのAE活動度の3次元表示
と発見された損傷部
110m 径の GRP ライニング原油タンクにおける
TANKPACTM と MFL の比較
67m 径 GRP ライニング原油タンクの裏面腐食における
TANKPACTMと MFL の比較
ガソリン タンクのリーク 50m 径の高温オイル タンク ナフサ タンクのリーク
  • 極めて集中度の高いAE発生源(通常の50倍程度)。
  • 製品タンクにおいては、その集中度が大きくない限り小さなリークを発見することは困難。
  • 開放検査で1mm 径程度の孔を発見。
  • 全体判定で“E” に分類。
  • アニュラー部に大きなAE活動。(15mmのアニュラー板に8mmに至る腐食減肉。)
  • 漏洩(リーク)を防ぐため、タンクは直ちに操業停止。
  • 一日当たり100 立方メートルの損失。
  • リークの存在は視認出来ず。
  • ナフサの臭気のみを確認。
  • AE信号のレベルが高かったため、2%の感度で2分間計測。
  • 図中ピークの位置に1cm径のリーク孔を発見。
 TANKPACTM試験の限界
  • 活性な腐食のみを検出・評価可能です。
  • 計測条件をリセットしてしまうため、機械的あるいは科学的に清掃された底板の状況を評価することは不可能です。
  • 小規模なリークは、活性な底板の腐食により、確認できない可能性があります。
  • 大規模なリークは、底板の全体的評価を不可能にします。
  • 保温材下の活性な腐食は、底板の評価を不可能にする可能性があります。
  • AE源が同時多発的に生ずるため、非常に活性の高いタンクの位置標定は、不正確になる可能性があります。
  • 環境雑音、その他の要因で全てのタンクが検査可能とは限りません。
  • 試験手順が複雑なため、常に検査員の訓練・管理が必要です。
 TANKPACTM試験の品質管理と訓練
  • ISO 9002 に基づく文書管理システム:
    • 十分な訓練と技量認定を受けた技術者。
    • TANKPACTM 試験手順の管理。
    • TANKPACTM 試験ワーク シートの管理。
    • 各試験の品質管理計画。
    • ディジタル化したデータの保存と完全なトレーサビりティ。
  • 技術者の訓練と技量認定:
    • ASNT II AE 一般。
    • TANKPACTM 試験手順の講義とフィールド訓練。
    • TANKPACTM 筆記及び実技試験。
    • TANKPACTM 試験技術者となるためには、最低50基程度の試験経験をもつことが必要。
  • 最終報告書にはPAC level III 技術者の検査と承認が必要。
 国内におけるAE法適用の研究
欧米で構築されたデータベースをそのまま適用するには、メンテナンスに対する考え方が欧米とは異なる点や、さらに法的規制などにより問題があります。現在、我国では存在するリスクを適切に評価し、装置の安全性、信頼性を高め、さらに経済効率を追求しながら検査の最適化を図るための手法として、RBI(Risk Based Inspection)が注目を浴び、自主保安を実行するための手段として、様々な分野で適用されようとしています。今後、規制緩和あるいは撤廃により、我国でもタンク底板の腐食損傷診断に対して、合理的にAE 試験を活用することが大いに期待されます。

近年AE法が注目され、国内のメンテナンスの方法や、評価方法に適切したデータベースの構築が精力的に行われてきました。

  • 平成10~12年度、さらに13~15年度:石油公団及び(社)高圧力技術協会により、「経年劣化を考慮した長期備蓄タンク診断・保全技術に関する調査・研究委員会」
  • 平成11~14年度:NEDO、石油産業活性化センター及び(財)エンジニアリング振興協会により、「AE法による操業中タンクの底板腐食診断・評価技術」
  • 平成11~13年度、さらに15~17年度:(独)消防研究所、東京ガス(株)、日本油脂(株)及び日本フィジカルアコースティクス(株)の共同研究で、「AE法による構造部材の腐食モニタリング技術に関する基礎的研究」
  • 平成17年5月:(社)日本高圧力技術協会(HPI)のガイドライン「AE法による石油タンク底部の腐食損傷評価手法(HPIS G 110 TR 2005)」が公布

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